医療の充実
医療費助成と創薬研究の充実を求めます

ウイルス性肝炎は国民病・医原病

日本のウイルス性肝炎は、ウイルス感染者・患者が350万人にのぼるといわれる「国民病」です。

国民の36人に1人が感染していることになります。B型肝炎ウイルスが慢性的に感染している人の大部分は、B型肝炎の慢性的な感染者である母親から子に対する母子感染、集団予防接種における注射針等の使い回しや幼少期の医療行為などにより感染しました。また、我が国のC型肝炎感染者の多くは、輸血や血液製剤、注射針の使い回しなどにより感染したものと言われています。このように、我が国においてウイルス性肝炎は、集団予防接種、血液製剤投与、輸血等の医療・厚生行政に関連して広がった「医原病」なのです。


国民の36人に1人が感染


医療費助成制度の現状

ウイルス性肝炎患者に対しては、患者団体などの長年の医療費助成を求める運動によって、2008年に抗ウイルス療法であるインターフェロン・核酸アナログ製剤療法に対する医療費助成制度が創設されました。しかし、これは肝硬変・肝がん患者の入院費用・手術費用など抗ウイルス療法と直接関連のない医療費には適用されません。平成24年の厚生労働省の調査で、肝硬変・肝がん患者の医療費の負担がきわめて重くなっている実態が明らかとなっています。

まず、肝硬変・肝がんへと病状が進行するにしたがって医療費が増加していく傾向が表れています。肝がんに進行すると、年間の治療費が50万円以上必要な患者さんも数多く存在し、更には100万円以上必要な患者も存在します。他方、肝硬変・肝がんへと病態が進行すると、体調不良や頻繁な入院等が原因で満足に働けなくなってしまうことも少なくありません。

そのため、患者さんの収入は減少し、実際に、世帯全体の収入が300万円に満たない世帯が半数以上となっています。上記医療費の負担を考慮すると、経済的に困難な状況に陥っている患者さんが多数に上ると容易に想像できるでしょう。
このような生活状況から、肝炎の患者さんは、健康体に戻るための創薬の研究開発を求めるのと変わらないほど強い要望として医療費の助成・生活支援を求めているのです。

これまでの取り組み

前記のように患者団体等は長年にわたって医療費助成などを求めて運動を続けてきました。このような状況の中、2014年には障害年金受給に関する障害認定基準について、重症度を判断するための検査項目が「Child-Pugh分類の5項目+血小板」と見直され、また、障害等級を客観的に判断するため、検査項目の異常値の個数が設定されるなど、基準の明確化、客観化が図られました。

2014年及び2015年、日本肝臓病患者団体協議会、薬害肝炎全国原告団・弁護団、全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団の3団体は共同で、医療費助成等を求める国会請願署名に取り組みました。多くの国会議員の皆さまからご支援をいただき、参議院では請願が採択されました。
また、全国の地方議会で、医療費助成を求める意見書が採択され、すべての市町村で意見書が出た都道府県も数多くあります。
このような運動の発展をもとに、肝硬変・肝がんの医療費助成について以下のようにいくつかの制度的な前進が達成されました。

1. 身体障害認定の基準見直しに伴う自治体医療費助成の適用範囲拡大

現行の基準では、きわめて重度の肝硬変(C-P分類Cランク)でなければ身体障害認定は一切受けられませんでしたが、その認定範囲をC-P分類Bランクにまで広げる基準見直しが2016年4月に実施見込みです。1級または2級(自治体によっては3級も)の身体障害者として認定されると、自治体による医療費助成の対象となります。
これによって、かなりの非代償性肝硬変患者(肝がんを併発している場合ももちろん)が、医療費助成を受けられることになります。

2. 抗ウイルス療法助成を受けていない
慢性肝炎・肝硬変・肝がん患者の定期検査費用助成

昨年度から導入された抗ウイルス療法助成を受けていない低所得の肝炎患者に対する定期検査費用助成については、全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団は昨年と今年の厚生労働大臣との協議における課題として、検査回数や対象範囲の拡大を求めてきました。その結果、2016年度から①住民税課税年額235,000円以下の世帯の患者には、②年2回の定期検査費用が助成対象となりました。
これによって、これまでさまざまな理由から抗ウイルス療法とこれに対する助成を受けることができなかった慢性肝炎・肝硬変・肝がん患者のうち相当数が、ほとんど医療費負担なしで(非課税世帯は負担ゼロ、住民税課税年額235,000円以下の世帯は1回1,000円)、定期検査を受けることができるようになりました。

3. C型経口新薬の代償性肝硬変への適応と医療費助成

2014年より、複数のC型経口新薬が実用化されいずれも抗ウイルス療法薬として医療費助成の対象とされています。今後実用化される予定の経口新薬には代償性肝硬変へ適応があるものが含まれており、これまでの「C型慢性肝炎から肝硬変に重症化すると抗ウイルス薬が使えないため助成が受けられなくなる」との状況から、代償性肝硬変であれば助成のもとに抗ウイルス療法を受けることができるようになりました。
このように、従来からの患者運動の成果である抗ウイルス療法への医療費助成制度のもとで、医学の進歩によって患者の救済が大きくすすむ道が開かれました。

今後の課題

以上のように、肝硬変・肝がんを中心とするウイルス性肝炎患者については、これまでの抗ウイルス療法への助成範囲の拡大とともに、身体障害認定基準の見直しや定期検査費用助成制度の創設・拡大によって、着実に医療費助成の対象が拡大してきました。

包括的な医療費助成制度の創設が待たれますが、特に、高額になりがちな肝硬変・肝がん患者の合併症の治療費や入院費・手術費に対する助成が必要です。また、身体障害認定基準の見直しによる医療費助成範囲の拡大のもとでも、重度の肝硬変を併発していない肝がん患者についてはその恩恵が受けられませんので、それについての助成も検討されるべきです。

肝炎の完治を目指して

肝炎の撲滅も重要な課題です。C型肝炎については根治薬が開発され、現在では「治る病気」として認知されています。他方、B型肝炎については、裁判の基本合意をきっかけとして、国によってB型肝炎根治のための創薬研究がはじまりました。
この研究を活性化させ、日本、そして世界に数億人いるといわれている肝炎患者の救済につながる活動をしていきたいと考えています。


B型肝炎の核酸アナログ製剤「テノホビル」の
安定供給確立を求めています

今年8月12日に起きた中国天津の爆発事故の影響で、日本向けのテノホビルを製造していたグラクソ・スミスクライン社の工場が被災し、8月31日時点において生産再開のめどが立たない状況でした。国内在庫にも限りがあるため、医療機関としてもテノホビルの処方期間を短くしたり、新規の処方は控えるなどの対応がとられはじめました。

このような状況を受けて、2015年9月16日、私たち全国B型肝炎訴訟原告団と日本肝臓病患者団体協議会(日肝協)は、テノホビルの安定供給を確保するよう、厚生労働省に共同で緊急申入れを行いました。 テノホビルは、2014年から患者さんへの処方が開始されたB型肝炎の最新の核酸アナログ製剤であり、現在では国内に約7000人の利用者がいます。核酸アナログ製剤は継続服用がとても大切であり、患者にとって薬剤の安定供給はきわめて重大な関心事です。

そこで、患者団体である日肝協や私たちは、製薬メーカーや厚生労働省、肝臓学会などの関係者から情報提供を受けるとともに、他の生産拠点からの緊急輸入や国内生産体制の確保など、患者としての立場で出来るだけ早くテノホビルの安定供給体制の確立を申し入れ、マスコミなどでも大きく取り上げられました。これを受けて、厚労省は関係各方面に対して速やかに国内供給が再開されるよう対応を求め、2015年10月現在、一定の在庫数が確保されるに至り、引き続き製薬メーカーと厚労省による安定供給確保のための取り組みがすすめられています。

私たちは今後とも、日肝協などとともにテノホビルの安定供給を確立するために努力していきます。


みなさまのご理解とご支援をよろしくお願いいたします。